クラウド上の高性能GPU環境により、従来約500分かかっていたレンダリング処理を約50分に短縮できることを確認
Use Case
導入事例
GPUリソースの限界をRaplase AI Next で 突破 Unreal Engine のレンダリング時間を10分の1に短縮し AIエージェント連携で次のステージへ
東映の研究開発の役割を担う組織であるツークン研究所は、最新のさまざまな技術を活用した制作を行っているが、制作現場では高負荷な処理に対するGPUのリソース不足という問題に直面していた。そこで、エクストリーム-Dがクラウドで提供するAI向けプラットフォームサービス「Raplase AI Next」のPoCを実施。Unreal Engineによる高負荷のレンダリングをクラウド上で検証し、従来約500分を要していた処理を約50分に短縮できることを確認した。今後はAIエージェント連携による制作工程の自動化の検証にも取り組む予定だ。
課題と解決
導入前の課題
- 高負荷なレンダリング処理でGPUのメモリが不足し、処理が停止するケースが多発
- 夜間に実行したレンダリングが翌日に失敗していることがあり、再作業によって制作サイクルが長期化
- オンプレミスでの大容量GPU環境の整備は、機材調達や電源容量、運用コストといった点からも困難
導入後の効果
日中に複数回のトライ&エラーを回せる見込みが立ち、ディレクターやテクニカルアーティストの判断速度と制作品質の向上に寄与
事例詳細
先端CG制作を支える東映ツークン研究所の技術力
東映の研究開発組織として、同社が提供する革新的なコンテンツの制作のほか、さまざまな技術開発・検証に取り組むツークン研究所。デジタル技術を活用した多彩なサービスを展開し、特に豊富な実績を誇るのは、モーションキャプチャーやフェイシャルキャプチャーといった技術だ。
「身体だけでなく、顔の動きまで同時に取得できるフルボディキャプチャーが強みです。独自の3DCGフェイシャルキャプチャーシステム『FCS』を開発し、欧米人の顔をベースとした既存ソフトウェアでは対応が難しかった、日本人・アジア系人種の骨格に適した表情表現を実現しています」と語るのは、同研究所においてテクニカルディレクター/開発プロデューサーを務める安川貴志氏だ。
この技術は、著名なゲームタイトルのカットシーン制作に使われているほか、TV番組中の特撮シーンなど、幅広い制作現場で活用されている。さらに近年では、LEDウォールを用いたバーチャルプロダクションスタジオでの撮影も手がけており、CGキャラクター(VTuber)と実在のタレントが共演するミュージックビデオ制作にも取り組んできた。
GPUリソースの限界が制作現場の試行錯誤を阻む
だが、ツークンの制作現場で顕在化していたのが、GPUリソースの限界だ。あるミュージックビデオの制作案件では、2025年当時として最大級のメモリを搭載したNVIDIA GeForce RTX 5090 (VRAM: 32GB)を用いても、レンダリング中にリソース不足で処理が停止する事態が発生していた。
重いレンダリングは夜間に実行するが、翌日に確認すると失敗していることが珍しくない。そのたびに再作業を余儀なくされ、多大なタイムロスが発生してしまう。
「本来、映像制作では多様なパターンの素材を用意し、その中から最良のカットを選ぶのが基本となります。しかし、GPUリソースの制約により、『先に絵を決め、パフォーマンスチューニングしてからレンダリングする』という進め方をせざるを得ず、『もしかしたら、もっと良いアングルがあったかもしれない』という心残りを常に抱えていました」(安川氏)
より短いサイクルでトライ&エラーを実現し、この問題を解決するには、大容量・高性能のGPUが必須となるが、最新世代(Blackwell)の高性能GPUの入手は容易ではない。そもそもオンプレミス環境に大規模なGPUのレンダーファームを構築するのは、調達・運用コストや電源容量などの観点でも高いハードルが立ちはだかる。
クラウド上でのGPU活用を見据えた「Raplase AI Next」のPoCを開始
課題解決に向けて、同研究所はクラウドGPU活用を見据えた検討を開始した。コロナ禍以降、CG制作の現場でも拡大している外注スタッフとの協働やリモートワークに対応する上でも、レンダーファームをクラウド上で運用する必要性が高まっていた。
こうしてPoC(概念実証)を開始したのが、AIクラウド基盤をマルチ環境で提供するエクストリーム-Dの「Raplase AI Next」である。
著名VTuber事務所でコンテンツ制作に携わってきた経歴を持つ安川氏は、「前職から深いつながりのあるモータースポーツ業界の関係者に相談を持ち掛けたところ、エクストリーム-Dを紹介いただき、Raplase AI Next の検証環境を気前よくお借りできることになりました」と語る。
Unreal Engine の高負荷レンダリングを10分の1に短縮
2026年5~6月の約1ヶ月をかけて実施したPoCでは、同社が3DCG制作に利用しているゲームエンジンであるUnreal Engineが、Linux上で動作するかどうかの検証からスタートした。
そして、運用環境に問題がないことを確認した上で、実際の制作現場で発生していた課題を再現するベンチマークを構築。同研究所 デジタル制作部 プログラマーの塙翔登氏は、「負荷の高いエフェクトやアセットをRaplase AI Next上に多数配置した検証環境でレンダリングを実行できるかどうかを確認する、オンプレミス環境との対比実験に着手しました」と語る。

写真: Unreal Engine の高負荷レンダリング (デモデータ)
具体的には、ライティング、影、複数アングル(カメラ)の表示・非表示の切り替え、細かいメッシュや大量の粒子が発生するシーンなどが主な検証対象となる。一例として挙げるのは、ライブ演出などで行われる紙吹雪が大量に舞うシーンだ。
「現実世界(実写)では、大量の紙吹雪を物理的に散らすだけで済みますが、CGではその1枚1枚をメッシュや粒子として処理する必要があり、GPUの負荷は非常に重くなります。今回のPoCでは、10万〜20万粒程度の紙吹雪を散らすような負荷を想定し、どこまで処理できるかを試しました」(安川氏)
こうした検証の結果、従来は500分以上を要していたレンダリング処理が、10分の1の約50分にまで短縮されることが確認された。
「従来は夜間にしか実行できなかったレンダリング処理を、日中でも実行できるようになります。しかも、1日のうちに3~4回はイテレーションを繰り返すことが可能です。CG制作の工程において、このスピード感は劇的な改善をもたらします」(安川氏)
もっとも従来のPCとは異なり、Raplase AI Nextのオンデマンド環境では利用できるCPUのコア数に制限があり、サービス形態によってレンダリング時間に差が生じることが明らかになった。加えて、長時間のレンダリング中にセッションが切断されてしまうなど、PoCの過程ではいくつかの問題にも直面した。
「エクストリーム-Dの助言を受けながら、環境設定の変更やセッション時間の調整を行うことで、これらの課題を解決していきました。PoCをスムーズに進める上で、このサポートはとても重要でした」(塙氏)
AIエージェント連携による制作工程の自動化を展望
今回のPoCを経て大きな成果を確認したツークン研究所は、現在Raplase AI Nextを正式に導入している。次のステップとしてUnreal Engine 5.8で導入されるMCPサーバーの仕組みを活用し、Raplase AI Nextと連携させたAIエージェントによる作業自動化の検証に乗り出す計画だ。
これまで塙氏のようなエンジニアに対して、テクニカルアーティストが個別に依頼していたバッチ処理ツールの作成やレンダリング処理などの指示を、AIエージェント経由でアーティスト自身が実行できるようにすることを目指す。
「エンジニアへ作業を依頼すると、仕様確認や汎用性の検討などのやりとりにも相当な時間を費やします。この工数を大幅に削減できる可能性があります」と安川氏は語る。
ただし、こうした用途ではグラフィック処理とAIの推論処理それぞれにGPUの計算能力が必要となるため、通常のゲーミングPCでは性能やリソースもますます厳しくなる。
「AIエージェントとUnreal Engineを同時に動かすためには、よりハイエンドなGPU環境が必須であり、その意味でもRaplase AI Nextへの期待が高まります」(安川氏)
さらにツークン研究所は、その先の取り組みとして、ベテランアーティストが持つ暗黙知の継承にも目を向けている。安川氏は、経験に基づく感覚的なノウハウが十分に言語化されないまま受け継がれている現状を挙げ、「AIエージェントがベテランと若手の間に入り、『なぜそうするのか』を壁打ちしながら確認したり、チューターのように支援したりできれば、より大きなクリティティブの価値を生み出せるのではないかと考えています」と強調する。
映画・アニメ業界が抱える構造的な問題でもあるマンパワーに依存した制作工程に、AIエージェントによる自動化を段階的に取り入れていくことで、ツークン研究所はCG制作の新たな可能性を追求していく方針だ。
東映株式会社
ツークン研究所 デジタル制作部
安川 貴志 氏 (左), 塙 翔登 氏(右)