社内リソースでは計算できなかった大規模モデルの解析が可能となり、実行できる解析の幅が拡大
Use Case
導入事例
アフターパーツ開発・レース参戦を支える CFD解析の時間を最大8分の1に短縮
M-TECの商品事業とモータースポーツ事業の両部門は、CFD(数値流体力学)解析/シミュレーションを日常的に実行しているが、自社で保有するワークステーションの台数や計算能力には限界があり、解析対象や精度に妥協を強いられる場面が少なくなかった。そうした中、エクストリーム-Dが提供するクラウドベースの高速AI・HPCプラットフォームサービス「Raplase RCA」のPoCを実施。自社環境では対応できなかった大規模モデルの解析を実現したほか、解析時間を最大8分の1程度に短縮できることを確認した。
課題と解決
導入前の課題
- 自社保有のワークステーションのスペックに限界があり、大規模・高精度な解析ができないケースがあった
- 限られた台数の解析用マシンを社内で共有しており、利用スケジュールの調整に手間がかかっていた
- 計算時間の制約から、メッシュを粗くするなど精度を妥協せざるを得なかった
導入後の効果
計算時間を従来比で最大8分の1程度に短縮し、その日のうちにも複数回の試行錯誤を回すことも可能に
事例詳細
レースで培った技術と知見をアフターパーツ開発に生かす
「無限」ブランドによるホンダ車向けの高性能化パーツやコンプリートカー、バイク用品などを製造販売するM-TEC。レースの現場で培ってきた知見を生かし、「純正では表現できない世界観」を提供している。同社 商品事業部 商品企画開発課 主査の傘谷純樹氏は、「例えばエアロパーツの開発では見た目のかっこよさに加え、ハンドリングや燃費への影響といった機能面も重視し、アフターパーツとしての高い価 値を生 み出しています」と語る。

実際、モータースポーツは同社の事業の中核に位置しており、「TEAM MUGEN」として国内外でさまざまなレース活動を展開。国内最高 峰 のフォーミュラーカーレース「SUPERFORMULA」や「SUPER GT」などの四輪レースのほか、EVバイク「神電」でイギリスのマン島TT Zero Challengeにも参戦してきた。そこでもレーシングエンジンやパーツの設 計から製造、価・試験、実走まで一貫して手がけている。
自社ワークステーションの限界という長年の課題
M-TECにとって欠かせないのが流体解析をはじめとするCAE/シミュレーションであり、主 に シーメンス 社 のCFD解 析 ツー ル「Simcenter STAR-CCM+」を活用している。商品事業ではエアロパーツの空力性能の確認に、モータースポーツ事業ではレース車両の車体空力や、水・オイルなどの冷却系統の解析に同ツールを用いており、「いずれも設計段階での性能の作り込みに欠かせない工程となっています」と傘谷氏は強調する。
一方で、長年の課題となっていたのが計算リソースの限界だ。解析結果を得るまでの時間は計算を担うマシンスペックに大きく依存するが、M-TECにとって、高性能なコンピューティング環境への投資はコストの関係上なかなか手を出せない状況だった。
モータースポーツ事業部 設計課 課長代理の玉澤司氏は、「負荷の重い解析に耐えられる高スペックのワークステーションは1 ~ 2台にとどまり、社内で共有しながら利用スケジュールを調整することで、何とかやりくりしてきました」と振り返る。
実際に、解析では膨大な時間であり、物理時間1秒分の現象を再現するために、計算時間にして1~1.5時間を要するケースも
珍しくない。モータースポーツ事業部 設計課 係長の宮下修一氏は、「開発スケジュールに間に合わせるため、メッシュを粗くするなど、精度を犠牲にしても計算時間を短縮するしかありませんでした」と明かす。さらに傘谷氏も「本当は10通り試したい条件を、7通りぐらいに絞り込まざるを得ないこともありました」と時間的な制約が解析の幅を狭めていた実情を語る。
潤沢な計算資源を利用できる Raplase AI Next に期待
多くの課題を抱えていた同社に光明をもたらしたのが、クラウドベースの高速AI・HPCプラットフォームサービス「Raplase AI Next」だ。その有用性を検証するため、まずはPoC(概念実証)の実施が決定した。
「最初に話をいただいたときから、大きな期待しかありませんでした」と語る玉澤氏がまず注目したのは、Raplase AI Nextから提供される潤沢なCPUコアやメモリ容量といった高スペックである。加えて、物理マシンを調達・設置・セッティングする手間がかからない点も魅力だった。「インター ネット上ですぐ使える利便性は、オンプレミスのHPC環境をはるかに凌駕します」と玉澤氏は語る。
こうして2025年8月より動き出した取り組みでは、STAR-CCM+がRaplase AI Next上で問題なく動作するかどうかの検証から着手。動作確認は主にエクストリーム-D側で行われ、確認が取れた後に実際にM-TECで使用しているデータを用いて、従来のワークステーションとの比較検証に進んだ。
自社では不可能だった解析を実現計算時間は最大8分の1に
PoCでは、商品事業部とモータースポーツ事業部からそれぞれ1テーマずつ選定し、検証が行われた。商品事業部が選んだのは、市販車「CIVIC」のフルエアロモデルを対象とした車体全体のCFD解析だ。これは風洞実験に相当する規模の解析であり、従来は社内のワークステーションでは計算リソースが不足し、実行できなかったモデルだった。

Raplase AI Next上ではこのモデルの解析にも余裕で対応でき、フル解析を行った場合でも5 ~ 6時間で処理は完了。「退勤する前にボタンを押しておけば、翌朝出勤したときには解析が仕上がっています」(傘谷氏)という運用が可能となった。なお、メッシュを粗くしたモデルについては、従来約8時間を要していた計算が2時間未満、条件によっては1時間程度にまで短縮されたという。
一方のモータースポーツ事業部が選んだのは、電動バイク「神電」のモーター内部におけるオイルの流れを対象とした解析だ。こちらは時間経過に伴う挙動の変化を追う非定常解析であり、空気と油が混ざり合うという複雑な現象を扱うため、計算負荷は非常に高い。「外部のアナリストに委託しても3 ~ 4時 間かかっていたこの解析 が、Raplase AINext上ではわずか1時間強で完了し、本当に驚きました」(玉澤氏)
ただし解析の妥当性について、M-TECではシミュレーションの数値だけに頼らず、最終的には試作品を車両に取り付け、評価ドライバーが実際にテストコースを走行して確認するプロセスを重視している。
「シミュレーション結果だけにとらわれると見えなくなってしまう部分も多いのです。したがって私たちは、重要な局面では必ず人が判断することを大切にしています。裏を返せば、Raplase AI Nextによって解析が高速化さたおかげで、このHuman in the loopのプロセスを確立することができました」(傘谷氏)
オンデマンドで活用できる柔軟性を評価
PoCから約1年が経過した現在、RaplaseAI Nextの継続利用は検討中であるが、期待以上の成果が得られた手応えは大きい。玉澤氏も「一度その速さを知ってしまうと、昔のペースに戻るのはやはりもどかしいですね」と語る。
今後のRaplase AI Next活用の可能性としては、案件単位でのオンデマンド活用が想定されている。「社内リソースだけでは立ち行かず、大規模な解析が求められるプロジェクトが立ち上がったときには、またRaplase AI Nextの出番となるでしょう」と玉澤氏は語る。特 にモータースポーツ事 業では 、新たなレース参戦といったチャレンジが急に立ち上がることも珍しくないだけに、Raplase AI Nextは心強い後ろ盾となる。
「ハイスペックなサーバー を用意しなければ決して得られなかったリソースやパフォーマンスを、オンデマンドで自分たちが使いたい期間だけ利用できます。そうした仕組みが背後に控えていること自体が、今後のレース分野の設計・開発における大きな安心材料となります」(宮下氏)
解析に使える柔軟なコンピューティング環境という新しい選択肢を得たM-TECは、今後も商品事業とモータースポーツ事業の両輪で、エンジニアリング力のさらなる強化を目指していく方針だ。
株式会社 M-TEC
1973年、本田宗一郎氏の長男・本田博俊氏が「株式会社無限」として創業。2003年に株式会社M-TECを設立し、翌2004年に無限の事業をM-TECに譲渡し現在も「無限」としてホンダ車向けアフターパーツの企画・開発・製造・販売と、SUPER FORMULAやSUPERGT などへのモータースポーツ参戦、電動バイクレースへの参戦を手掛ける。
株式会社 M-TEC モータースポーツ事業部 設計課、商品事業部 商品企画開発課
(左から) 課長代理 玉澤 司 氏、主査 傘谷 純樹 氏、係長 宮下 修一 氏